あたたかいパンとシチュー

「高所恐怖症パイロット?」

ギルガメシュ叙事詩を読む(11):ウルクはここに健在です!

ギルガメシュ叙事詩・第十一の書板を読んでいきます。

(!)これは研究メモの類ではなくて、フェイトのおたくによる「感想文」です>< 原文や諸海外訳は読めていないのでごめんなさい…。なお、標準バビロニア語によって書かれた、全12の書板からなるバージョン(=「標準版」)をベースに読んでいます。

 

<第十一の書板>
洪水物語〜若返りの草〜ウルク帰還

 

「洪水物語」の原型も此処に

ウトナピシュティムは、「いかにして自らが永遠の命を手に入れるに至ったか」をギルガメシュに語ってきかせます。

かつて神々は、メソポタミアの地に大洪水を起こし、人間達を滅ぼすことを決定しました。人間の絶滅を避けるため、知恵の神エアはウトナピシュティムに助言をします。「方舟を造り、それにすべての生命種を載せよ」と。
ウトナピシュティムはその助言通りに事を成し、種々の生命は大洪水から逃れることができました。その功績により、ウトナピシュティムは不死を手に入れるに至ったというのです。
このお話は、かの有名な「ノアの方舟」…旧約聖書・創世記の一節の原型であったといいますから、歴史のロマンを感じるなあと思います。また、メソポタミアには他にも2つの「洪水物語」伝承が残っていて、それぞれに若干の差異はあるものの、「人間を滅ぼそうとするエンリル神と、人間に知恵を与えて援けるエア神」という構造は変わりません。

 

ここでFGO話をば。前回のエントリにも書いたけれど、プロトギルくんの「ナピュシュテムの大波」は、この「洪水物語」エピソードから取ってきているようです。

空間が割れ、ノアの洪水の逸話の原型となった大海嘯、ギルガメッシュ叙事詩の言うナピュシュテムの大波が都市に崩れ落ちる。
(Animation materialから一部引用)

衛星軌道上に展開された宝具「終末剣エンキ」の起動で海水が呼ばれ、7日後に「ナピュシュテムの大波」となるのだとか。叙事詩における洪水も7日間なので、日数的な設定も合致していますよね。
洪水を呼ぶ神様が原典と違いますが、まあそこはさしたる問題ではないでしょう。ここでのエモポイントは、【終末剣エンキ(プロト)→乖離剣エア(SN以降)/ナピュシュテムの大波(プロト)→ ナピュシテムの牙(FGO)】という継承関係だと思うので!

 

若返りの草を手に入れる

色々あってウトナピシュティムは、ギルガメシュに「生命の秘密」を明かします。それは、深淵(アプスー)に「若返りの草」があるという事。その草を手にすれば、永遠の命を手に入れられるという事です。話を聞いたギルガメシュは重石を足に縛り付け深淵に潜り、草を手に入れて喜ぶのでした。

 

FGOでは「冥界のメリークリスマス」にて、この話が出てきてましたね。

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「深淵の要石」なるアイテムを携えて、アプスーにいるエレシュキガルに会いに行く。冥界下りなのに楽しげでいい感じです。

 

それからちょっと気になった話。月本先生の解説に、

ギルガメシュはシュメル時代にはビルガメシュと呼ばれていたが、その意味がまさに「老人が若者である」であった

というのがあったんです。つまり、ビルガメシュという名前自体が物語の主題に直結しているよ、ということだと思うのですが…。
…うちの後輩からはこういう風に聞いてたんですよね。
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シュメル語はわからないのでちょっとお手上げです…。判明したら追記します。

 

ギルと蛇と三女神同盟

さて、無事に若返りの草を手に入れたギルガメシュでしたが、彼を哀しい運命が襲います。

ギルガメシュは冷たい水をたたえる泉を見て、下って行き、水で身をきよめていた。
一匹の蛇がその草の香りを嗅いで、音もなく忍び寄り、草を取り去った。戻って行くとき、それは皮を脱ぎ棄てた。

わ〜……… ; ; ; ; ; ;
なんたることか。若返りの草は蛇に盗まれて、ついにギルガメシュは、人間は、永生のチャンスを喪ってしまうというのです。そして代わりに蛇は「脱皮」という形で永遠を手に入れると…。「ギルガメシュは永遠の命を手に入れました、めでたしめでたし♪」にしてくれないんですよね。この辺がシビアで面白い。

 

FGOの観点からひとつ話を挟みますが、「ギルガメッシュに対する“三女神同盟”」って、「ギルガメシュにとっての“蛇”」を意識した設計になってるんだろなと思います。


①ゴルゴーン→思いっきし蛇
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②ケツァル・コアトル→実は蛇属性
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③エレちゃん→蛇権能あり
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ギルガメッシュ特攻(蛇)勢揃いとは恐れ入りました。

あとこれは余談ですが、弊カルデアにギルくん(弓)が来てくれた時、ヴリトラさん(蛇)が一緒に来て戦慄した記憶があります。ちなみに天井でした。怖。。。。。。。。。

 

ウルクはここに健在です!

いよいよ叙事詩はクライマックス。物語は、なんとも言えない粋さでもって〆られます。
若返りの草を奪われたまま、ウルクの街に辿り着いたギルガメシュ。彼は、舟師ウルシャナビに語って言うのです。

「ウルシャナビよ、ウルクの城壁に上り、往き来してみよ。礎石をしらべ、煉瓦を吟味してみよ。…」

目前に在るウルクの街を語るその言葉は、なんと叙事詩冒頭・第一の書板の繰り返しになっています。ギルガメシュが何を感じているのか、その後どうなったのかは一切語らず、ウルクの街をこそ語り、そして話を閉じるわけです。

……めっっっっっっっちゃかっこいい。
なんかこう、洋画のエンドロールが見えるんですよね。ウルクの遠景に重なって聞こえるギルガメシュの語り……最後のセリフでだけブラックアウトして、一拍おいてエンディング。これでしょ!!!

 

叙事詩はこうしてスマートに終わるわけですが、FGOでは、ギルガメッシュ自身によって「そのあと」が語られます。

「何を隠そう、我(オレ)も自分の国を滅ぼした事がある。…略…不老不死の探究にかまけてな。放浪したあげく、釣果無しで国に戻ればそこは廃墟同然。王の不在にあきれた民たちは他の都市に移り住んでいた。残っていたのはシドゥリぐらいなものよ。そのシドゥリも、“一言あなたに文句を言わないと気が済まなかった”と恨み節全開でな。ははは。これはまずい、とウルクを立て直すことにした。…略…ここまで長かったようで、短かった。一瞬の、夢の名残のようなものだ」

長めに引用しました。つまるところFGO7章というのは、「ギルガメシュ叙事詩」の「その後」。続編を描いた壮大な二次創作のようなモノなのですよね。『ギルガメシュ王はどうなったんだろう』『ウルクは、エンキドゥはどうなったんだろう』…その空想に応える物語を、シュメルの諸伝承とFateの文脈を混ぜ込みながら形にした傑作だと思います。FGOは平成令和の時代でも大ウケしたわけですが、きっとこれ当時のバビロニアでもウケてたでしょうね。だって、「ギルガメシュ叙事詩の続編でエヌマエリシュしようぜ!」ですからね、もう本当にすごいですよ。

 

長いエントリになりましたが、これで第11の書板は終わり。長かったギルガメシュ叙事詩の読書も一区切りです。もう1つ、番外編のような書板があるので、それを読んでからまとめに入ろうと思います。

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