あたたかいパンとシチュー

「重いとも。そしてその重さを楽しめ、雑種」

ギルガメシュ叙事詩を読む(7):うたかたの熱狂とウルクの夜

ギルガメシュ叙事詩・第六の書板を読んでいきます。

(!)これは研究メモの類ではなくて、フェイトのおたくによる「感想文」です>< 原文や諸海外訳は読めていないのでごめんなさい…。なお、標準バビロニア語によって書かれた、全12の書板からなるバージョン(=「標準版」)をベースに読んでいます。

<第六の書板>
ウルク凱旋〜イシュタルの誘惑〜天牛退治

 

イシュタル・ドゥムジ、参戦!

第六の書板は、ウルクに帰ったギルガメシュに、女神イシュタルが「わたしの夫になりなさい」と求婚するシーンから始まります。イシュタル(シュメル語でイナンナ)は愛と戦いと豊穣の女神であり、この地域では広く永く崇拝されていた神様でした。遡ることウルク第4期には「葦を束ねた小柱」の図像で、シュメル初期王朝期には女神の姿で表現され、人々に愛され続けた女神様。古アッカド時代には、時の王女エンへドゥアンナにより、イシュタルを主人公とした物語まで編まれるようになります。
…そんな大人気のイシュタル様の求婚を、あろうことか、ギルガメシュはこっぴどく断るんですよね。しかもめちゃくちゃな悪口を並べたてて。

悪口の内容は様々ですが、その中にこんなものがあります。

「お前の若いころの恋人タンムズには 年ごとに泣くことをお前は命じた」

セリフは矢島先生訳から引用しました。この「タンムズ」は「ドゥムジ」のヘブライ語形。植物の成長と豊穣の神様であるドゥムジとイシュタルの(ひどい)関係が、別の物語「イナンナの冥界くだり」にて語られているのですが、それを踏まえて、ギルガメシュが悪口を言っているシーンというわけです。

…よし。ひさしぶりにFGOの話をします(ここはFGOのブログなので…)。
ドゥムジといえば、やっぱり彼だよね。
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「冥界のメリークリスマス」でたくさん喋ってくれたふわふわのオモロ羊。彼についてはギルガメッシュ王が直々に「なぜなにウルク」で説明してくれているのでとてもわかりやすいです。
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「我(オレ)も言いたくはないが、ドゥムジはウルクの王が神権を得て神になったもの。(略)かくしてドゥムジは『蘇る神』として地上に戻り、以後は『死と再生を司るもの』として人々に信じられるようになった」

このエピソードが描かれているのが、先ほど出てきた「イナンナの冥界くだり」なんですね。これは杉勇先生の「シュメル神話集成」にて読める(Kindleでも読める)ので詳細は割愛しますが、バビロニアでの冥界下り(権能を剥がされていくイシュタルのシーン)の元ネタに値します。
「イナンナの冥界くだり」は、お話の内容自体が面白いので、読みやすくていいなあと思います(しかもエレちゃんも大活躍!!)。

ウルクの夜、うたかたの光輝

ギルガメシュに拒絶されたイシュタルは、怒り、天牛をウルクに放ちます(FGOで出てくるグガランナ)。それはウルクを容易く破壊するおそるべき怪物でしたが、ギルガメシュとエンキドゥは協力して打ち倒してしまうのです。
エンキドゥがイシュタルに言い放つ最高のセリフがあるので、月本先生訳から引用しますね。

「お前も征伐してやろう。これ(天牛)と同じようにお前にもしてやろう。
そのはらわたをお前の脇にぶら下げてやろう」

怖いよ〜〜〜( ; ; )

この、「イシュタルにあたりが強い」設定は、FGOにも取り入れられていますね。

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これがウルクのキレた斧。

 

とにかく、仮にも都市神のイシュタル様に、不敬を働きまくるギルガメシュとエンキドゥなのですが、ウルクの人々の熱狂具合も半端じゃなかった。

仕え女たちは応えて、言った。
「人々のなかで、ギルガメシュこそ最も素晴らしい。男たちのなかで、ギルガメシュこそ最も立派である。」
(略)ギルガメシュは彼の宮殿で祝宴を催した。

フンババ退治と天牛退治で、ギルガメシュも周りのみんなもフィーバーしてるんですね。ギルガメシュフィーバー。

…しかし、その祝宴の夜。エンキドゥは夢を見ます。
それは、のちに「エンキドゥの死の暗示」と判明することになる、恐ろしい夢。その内容を知らせぬまま、第6の書板は幕を閉じるのです。引きが上手すぎなあ…。

 

さて、ここからはわたしの感想ですが、フンババ退治から繋げて考えてみると、ギルガメシュとエンキドゥの差というか、コントラストをよく感じます。
名をあげたい一心でフンババ退治に赴き、見事成功したギルガメシュ。女神には求婚されるわ、ウルクの人々にも大人気だわ…やっぱり「ノリにノッてる」んです。
一方、力も心も強いのに、フンババ退治にはずっと懐疑的で後悔もしていたエンキドゥ。そして、神に見放され、死を定められるのもエンキドゥなのです。
そんなこの2人を、ただ「仲の良い友達・相棒」と読むのは、いささか単純すぎる気もしてしまいますね。彼らの内面と結末には大きな違いがあることを踏まえて、後半の劇的な展開を読んでいきたいなと思います。

 

最後に。
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こういうの、すっごいうまいよなあって。