あたたかいパンとシチュー

「高所恐怖症パイロット?」

Heaven’s Feel Ⅱ.lost butterfly 感想メモ

引き続き、heaven's feelを見た感想を残しておきます。これは…神映画じゃあ……。

HFイリヤ最強説

ごめん、桜の映画だけども、何より先にイリヤの話をしたい。HFイリヤは最強。間違いない。本当の本当にかわいいのです。
「士郎に会いに来てあげたんだから。光栄に思いなさいっ!」
このカットのイリヤ、最強か…?

しかもHFイリヤはかわいいだけじゃないのだ。桜の件で悲しみに暮れる士郎の頭を…優しく撫でるシーンもある。
「士郎…泣きそう(なでなで)私は士郎の味方だもん」
これが…俗に言う「ママみ」なのですかね…はわ〜…。。。
そのほかバトルシーンでも、丸いお帽子が落ちないように、手で押さえながら走るカットがあったりと、異常に芸の細かい可愛さが存分に描かれています。ほんとうに何故イリヤ√が無いのか??

「俺は、桜だけの正義の味方になる」

印象的だったのは、他ルートには無い図書館の攻防シーンです。
卑劣な雰囲気で桜を人質にとる慎二。激昂する士郎。慎二を裏切るライダー。助太刀に入る凛&アーチャー。そして魔力を暴走させてしまう桜。三者三様の展開が集結する感じが、すごく印象的でした。

そしてここの慎二ね…辛いね…。1章から丁寧に積み重ねてきた「努力しても報われない」、「士郎に/桜に敵わない」描写が、このシーンで究極を迎えたように思います。ちなみに士郎が戦闘に使った「本」は、「社会と発達心理学 エリク・H・エリクソンより学ぶアイデンティティ(冬木大学社会学研究室)」。かの有名な、エリクソンの心理社会的発達理論を題材にした本のようです。この本を「強化」して身を守った士郎は、アイデンティティーーつまり、「自分が何者であるのか」を慎二に突きつけたと言えるでしょうか。慎二のライフはもうゼロよ!

自分の魔力を暴走させてしまった桜は、目の前で、士郎を傷つけてしまいます。そして、この後に続く桜と士郎のシーンが、ほんとうに素晴らしいのですね。

「あしたからは知らない人のふりをしようって。廊下で出会ってもすれ違うだけで、放課後も他人みたいに知らんふりして…ちゃんと1人で家に帰って…今までのことは忘れようって…でもできなかった!!」
桜の慟哭が心に迫ります。けれど士郎は、息を呑みながらも、桜に歩み寄る足を止めないのです。
「他の誰が許さなくても、俺が桜の代わりに桜を許し続ける」
そして決意を込めて、確かに言葉を語りかける。そんな士郎に対しての、桜の精いっぱいの切り返し。

「……わたし、処女じゃないんですよ」

…ここ。ここだよね。
これはね、文字面通りに受け取る話じゃないんだよね。だってこの局面で、処女かどうかなんて、本来どうでもいいことだと思うのですよ。だけど桜はなんとかして、「いかに自分が純粋なモノでないか」を語りたいんですね。そうでないと気が済まないんですね。「純粋でまっすぐな先輩の隣にいるべき存在じゃない」そう言いたいんですね。……どこかで、何かを期待しながら。

そんな自罰的な桜を、士郎は抱き締めて。
「俺が、桜を守るよ。俺は、桜だけの正義の味方になる」
そして桜の手を取る。
たいせつな鍵を、握り込ませるようにしながら。

な…な……、
なんだこれはーーーーーーーー!!!

士郎、パーフェクトコミュニケーションすぎんか??!!! すばらしい、すばらしすぎる…。言葉と体温、それに「鍵」という概念まで添えて…。

この一連のシーン、凛&アーチャーと対向車線ですれ違うシーンまで含めて、本当にすばらしい一幕と思いました。感服です。

濡場とホラーのジェットコースター

HF2章は、その性質からいわゆる「濡れ場」なシーンが多いです。しかもその全てに、すさまじい熱量…フェチズムが詰まっているので、まあリビングでは観られないタイプの映画になっているんですよね。
だけども、ただえっちなだけじゃない。そういうシーンには、決まってひとつまみの「不穏」が混ぜ込まれてるのがめちゃくちゃカッコいい。

例えば桜の自慰シーンの後。
画面中央には手を洗う桜。そして上手には、少し不自然な影が写り込んでいます。やがて、下手・画面外に去る桜。けれどその影は、桜と共に移動せず、止まったまま。「あれ…なんか不自然…」そう思わされたところで、すーーーっと下手へ動いて、消える……。
いや……こっっっっっわ。。。

続いて衛宮邸、桜の実質夜這いのシーン。
士郎の寝室の前に立つ桜の影が障子に映っているのですが、丸いフォルムが強調されていて、桜と例の「影」を重ねる演出になっています。怖い。士郎殺されてまうんじゃないかとすら思ってしまう。
どこか不穏さを孕んだまま、しっとりシーンへ。月明かりを受けて布団に落ちる、抱き合う2人の影法師。そして桜の影の方が…ノイズがかかったように…震えるんですね……。
「ーー大好きです、先輩」
士郎。桜の影から、目を背けます。
……見ないふり、してしまったね………。

男性陣も"カッコ良さでは"負けてない

HFは桜(と影)が強すぎなのですが、男性陣もカッコ良さでは負けてないと思うのですよね。
まずはエミヤんが「影」から凛を守るシーン。決死のローアイアス(花弁は7枚)、カッコいいですね…。
続く、気を失った凛の前髪をやさしく2度撫でるシーン。
「達者でな、遠坂」
うっ…やめろよっ…そういうの…っっ!
このルートでは、エミヤの正体に士郎と凛はたぶん気がついてないですよね…??それがまた、なんとも心にきますね…!

続いてギルくん。

「くうくうおなかが鳴りました!」
お姫様ドレスの桜、かわいらしい夢の中で「飴」を食べようとしてーー、
「精が出るな。だからあの時死んでおけと言ったのだ」
反転。飴だと思っていたそれは…実は人間の指でした……。のシーン。怖いけども、場面転換がやたらカッコ良すぎで声が出た。

続く、桜vsギルのバトルシーン。
不意に左足を切られたギル、ぐっと前のめりになり、地に手のひらをつきかけたところで、ぴたりと止まる。
「ーー我をひざまずかせようとは!!」
おお…王の矜持、王の威厳だあ…!ニクい演出。

さらにその後の「決着」の描写も素晴らしい。
「おお…よもや、そこまでーー」
動揺?感動?驚愕?見たことないタイプのギルの表情。そして。

「あーーむっ!」
桜、むしゃむしゃするポーズ。
カメラ、ぐぐーっと引き。すると、どでかい例の「影」が、画面奥のビルに映っている。手前には、血塗られた右脚だけが残っていて、ギルはいない。「つまり、この右足はまさか…?」の気づきを与えた後、「影」、さらに巨大化。その口らしきところから、金色の光が腹に落ちてゆく。ここで、「ギルが桜(の影)に食べられた」ことに確信させられる…という一連のシーン。あえて直接的な描写をしないところが粋なシーンです。控えめに言って天才の演出…。

やがてキラキラ夢の中

そして2章はクライマックスへ。イリヤや間桐爺の発言から、桜が「聖杯の門」であったことが明かされます。桜を通して、聖杯の中身(=「影」)が溢れ出してしまっていたらしいのですね。

桜は、きっとこの世界に災いを呼ぶもの。
それを士郎も、桜自身もわかってる。
……その上で。

「凍らせた心で、暖かな幻想をする」
士郎、包丁を手に取り、桜の寝室に赴いて。
月明かりが揺れるベッド。静かに眠る桜にーーそれを、振りかぶる。

……でも。

でも士郎はできないのです。
震える手、涙。士郎は桜を殺せなかった。

いいシーンです。士郎の想いが伝わる、本当に素晴らしいシーンなんです。

けどまだです。わたしは次のカットでとどめを刺されました。

桜の寝室を去る士郎。カメラはベッドの上。
…桜の瞳は開いていて。そして静かに、涙があふれて、落ちるのです。

ーー桜は、目覚めていたんですね…。
士郎が自分に包丁を向けたことも知っていて、でも士郎に殺されるなら構わないと、目を瞑っていたんですね。
けど士郎はそうしなかった。そんな士郎の悩み迷い葛藤、そして愛を、ぜんぶ静かに受け止めて、桜はそっと涙を流すのですね。

ああ、なんて、なんてうつくしいシーンなんだろう。ここで私は泣き声が出てしまいました。本当にすばらしく美しいシーンだと思います。

 

そしてこのシーンがあるからこそ、明朝のシーンもなおいっそう美しく思えます。
「ありがとうございます。先輩。たくさんのものを頂きました」
鍵を机に置いて、衛宮邸をあとにする桜。この気高さ。
桜は、「悲劇のヒロイン」ではないのです。


…なのに。慎二に襲われかけたことをきっかけに、桜は例の触手で慎二を殺してしまうんですね。冬木の民を「暴食」し、ギルの魂までも食べてしまった桜の聖杯は、もう十分に成熟していたということなんでしょう。桜は、人を、英雄を、殺せるのです。そしてもう、「我慢」もできなくなっていた。
絶望する桜に例の「影」がかぶさって、桜と「影」が一体化してーーそうして第二章は幕を閉じるのでした。

 

最後に。

「憐れみをください」
そんな言葉から始まるエンディングテーマ「I beg you」ですが、これはきっと、弱い少女の懇願ではないとおもうんですね。「憐れめるものなら憐れんでみよ」と。そんな挑発じみた趣がある。

 

桜という少女は不思議です。「弱くて繊細で臆病で、薄幸な少女」のような雰囲気を持っているのに、内面が多分そうじゃない。煮えたぎるような愛、情欲、渇望…そんな貪欲さが確かにある。きっと、勘違いされるんだろうなあ、「腹黒の女の子」「女の内面って怖い」…みたいに。

でもわたしは、桜の貪欲さって、「女だから…」みたいな性に依存した貪欲さじゃないと思うんだよね。桜の貪欲さはもっと、ヒトそのものに備わった渇望で…うまく言葉にできずくそダサい響きになってしまってごめんなのだけど、要は、「ガッツ」みたいなもんだと思うのですよ。