あたたかいパンとシチュー

「高所恐怖症パイロット?」

Heaven’s Feel Ⅰ.presage flower 感想メモ

初見オタクの感想メモです。めっちゃおもしろかった……。

 

最高の冒頭5分。このシーンだけで観る価値ある

第一章でいちばん好きなシーンはどこですか?と訊かれたら、きっと、「この冒頭5分だ」と答えると思う。それぐらい素晴らしいシーンでした。

「一年半前 夏」。
抜けるような青空に、白抜きの明朝体
蝉の声だけが響く弓道場。張り詰めた緊張感のなか、ただまっすぐに、弓を引く士郎。
その腕前に息を呑む部員たち。そして、ひとり拳を握り込む慎二。

…すごい!!桜との物語のはじまりを、高校1年夏の弓道場、士郎と慎二のエピソードから始めるという、この味わい深さ!

後に続く、「士郎が大会前なのにバイトで怪我をする」シーンも含めて、真っ直ぐゆえに無頓着な士郎と、繊細な慎二が、生き生きと描き出されているように思います。この冒頭は、多分慎二の方に共感しちゃうようにできてるし、士郎の「ちょっとした変さ」がさりげなく、でもたしかな違和感として残るようになってる。

 

シーン変わって、桜との出会いもいい。
夏の雨。ドアベルを鳴らしたのは、ずぶ濡れになった、ひどく暗く陰のある女の子。

「…間桐、桜です」

そして、雨の音とともに優しいタイトルコール。
題字は、いつもの凛としたフォントではなくて、手書きのやわらかな文字で。

Fate/stay night Heaven’s Feel
Ⅰ.presage flower


ーーなんかもう、すごすぎる。
ここまでで5分。この5分の完成度が高すぎる。

慎二と士郎のエピソード、桜と士郎の出会い。そのどちらもが繊細で繊細で…。そしてその繊細さを、いろいろな舞台装置と小道具を使いながら、丁寧に優しく、愛を持って描き出しているんですね。それがよく伝わる5分でした。

 

慎二&言峰との親愛度が高まってるけど大丈夫そ?

序盤。桜と士郎の穏やかな日々が描かれます。家事や勉強を桜に教える士郎は、プリヤ雪下の美遊兄とかぶって見えたけど、どちらかといえば、美遊兄がHF士郎のオマージュだったんだろうなあと今更ながら。

そして始まる聖杯戦争。他√との明らかな違いとして、「対バーサーカー戦で士郎が負傷した後、凛が士郎を家に送らない」があると思います。このことによって、士郎はライダー&慎二と遭遇し、しかもセイバーがライダーを圧倒してしまう…つまり、士郎と慎二の溝が深まってしまうことになるのです。(あれ、これもしや慎二√なのか??)
さらには、巻き込まれた綾子を教会に連れて行ったことで、言峰綺礼との親愛度も上がった気がするんですよね。なんだこのルート。
ただそのおかげで、言峰とセイバーから、10年前の聖杯戦争、そして衛宮切嗣の話を聞くことに成功します。なんの情報も無かったセイバー√と比べると、最序盤から士郎は情報を持ってるし、そのおかげでセイバーともよい主従関係を結べている。士郎の精神状態もかなり安定しているので、すごく安全・順調なルートにも見えるんですよね。

ギルくん「面白い。よくないものに魅入られているな」

……もしかしてそれ、桜の話してる…?

 

異常で異常でかわいい桜

聖杯戦争が始まっても、いや、始まったからこそなのかな、桜と士郎の仲は深まっていくことになります。慎二に殴られた桜を見て激昂する士郎のシーンとか、もうすごいですよね。士郎に感情がある!!てなる(あるよ)。
桜が倒れてしまったシーンもすっごいときめきシーンです。

「ここに泊まっていいって、どうしてですか? 私が…、心配だからですか」
「ああ、桜が心配だ」

ーーそしてぎゅっと手を握る、2人。
、わわ…???。これはFateなのか…??Fateだよ…そうか…これもFateなんだ…すごいぜFate…。

 

だけども、やっぱり桜ってかわいいだけのヒロインじゃないんだよね。

夜、例の土蔵に、半袖白ワンピース+サンダルで「お話よろしいですか?」と訪れるシーン。
この桜とても怖い…怖くない??? だって今2月よ、2月の冬なのですよ!?
そして、予告にもあった印象的なセリフが飛び出します。

「もし私が悪い人になったら許せませんか?」

…いやあ、この流れ。

やけに異常で…、怪しくて…、艶かしく…、そして味わい深いですね……(士郎は壊れたストーブを気にしていますが…これが主人公ぢからか…)。

その後も、「桜がベッドで苦しむ」→「街で異常なことが起きる」というカットがたくさん挿入されますので、「桜が何か良くないことを隠してる(自覚していなくても加担している)」ことが想像できる流れになってると思います。うまい脚本ですよね。

 

きしめん黒くらげが怖すぎる件

そんな桜の光と闇を味わっているうちに、キャスター陣営が落ちたり、真アサシンが登場したり、ランサーがめちゃバトったり、脱落したりと、聖杯戦争の勢力図は移ろっていきます。特にわたしが「ひえ〜〜」と思ったのは、キャスター陣営が落ちた次の朝の、「新都でまたガス漏れ」TV報道 → 台所に立つ桜のカットの流れです。だってね、SN/UBWまでしか知らないわたしは、「ガス漏れ=キャスター陣営の魂喰い」だという認識でいるんですよ。けど、この流れからすると、キャスターじゃない「誰か」が魂喰いをしていることになる。それは誰なのかーーまさか…???という。そういう連想と推理を誘発してくれる素晴らしい脚本でした。


そしていよいよ間桐爺さんとの対峙シーン。
見た目からして怪しすぎる間桐爺さんなので、きっと彼が桜を操って悪事を働いているんだろうと思っていましたが、そこで突如現れる謎の黒い生き物…いや、物体…? とにかくめっちゃ怖い「何か」…。きしめん状のくらげ…
Twitterで流れてくる、「世界で最も黒い物質の写真」てのがあるじゃないですか。まさにあれです。あれに呑まれて、削り取られるように消えるキャスターのシーン。そしてその「漆黒」に触れて発狂する士郎。怖すぎ。ほんと怖すぎ。

怖いんだけど、このシーンのセリフは重要ですよね。

凛「虚数…空間!?」
間桐爺さん「ありえん…!」

まず、あの「漆黒」が「虚数空間」である(につながってる)ことがわかります。かけだしFGOの民としては、先日イマジナリ・スクランブルを読んで、「虚数空間に触れたらやばいことになる」ってのは分かっていたので、うむうむ、という感じ。そして、桜の魔術が虚数属性であることは知っていたので、「やはり桜が…?」と疑念してしまうのですが、間桐爺もが驚いているんですねえ。間桐爺にも想定外の何かが起きてるんだ。

 

白い雪、白いサンダル。

第1章のラストバトルは、セイバーVSアサシン+黒い影/士郎VSお祖父様。
セイバーもランサーのように影に囚われてしまい、士郎は敗北してしまいます。…で、このシーンなんですけど。

満身創痍の士郎の元に、突如現れる「漆黒の何か」。

………こっわ泣泣

いやね、だってね、士郎が画面の左端から右に歩いていくと、後ろに黒い影が現れてるんですよ。
士郎が注視すると、静かな雪が降る音すら、一瞬シン…とかき消える画面の中央にポツンと存在する“それ”

……いや、めっっっっっちゃ和製ホラーだよ!!!!!! 夢に出てくるわ!!!

 

シーン変わって、雪が降り積もる冬木市
ボロボロの士郎。家の前では、桜が士郎の帰りを待っていた。

「ごめん。…それと、ただいま、桜」
「…はい、おかえりなさい、先輩」

このシーン。素晴らしくいいシーンです。重苦しい雪の景色もあいまって、すごくすごく印象的なのですが。……ここでも桜はサンダルなんだよね。
雪が降ってるのに。寒いのに。

「もっと自分を大事にしてください!」

懇願する桜。

やっぱり…、やっぱり何かが異常なんだよ……。だって、いくら心配でも、雪の日にサンダルで外には出ないよ…。
でもこれ、描写が変なんじゃなくて、多分、多分だけど…桜にとって、「足が冷たいなあ」とか、本当の本当にどうでもいいことなんだろうな……。当たり前の常識とか、自らの身体とか、本当の本当にどうでもよくて、ただ士郎のことが心配なんだよね。「もっと自分を大事にしてください!」てのは、本当は桜にも向けられるべきセリフなのに。


ーーというところで第1章は終了。たくさんの謎を残したまま、第2章へと進むのでした。