あたたかいパンとシチュー

「高所恐怖症パイロット?」

ギルガメシュ叙事詩を読む(2):もぐもぐもぐの謎

ギルガメシュ叙事詩・第二の書板を読みます。

(!)これは研究メモの類ではなくて、フェイトのおたくによる「感想文」です>< 原文や諸海外訳は読めていないのでごめんなさい…。なお、標準バビロニア語によって書かれた、全12の書板からなるバージョン(=「標準版」)をベースに読んでいます。

<第二の書板>
人間らしくなるエンキドゥ〜友情の芽生え〜遠征を望むギルガメシュ
※標準版・第二の書板は欠損が多く、古バビロニア版にて補う必要あり。

シャムハトについて考える

エンキドゥの生に欠かせない人物・シャムハトについて読んでみます。彼女はウルクから派遣された「神殿娼婦」でした。「神殿娼婦」とはなんなのか…ちょっと想像と理解が難しいところなのですが、例えばハンムラビ法典にも神殿の女官が妾の役割を果たしたことが記されているようです。ただし、単なる「娼婦」ではなく、交わりによってなんらかの聖的影響をもたらす存在だったようですね。とにかく、エンキドゥは彼女と交わったことで知恵とたしなみを身につけて、ウルクへ向かうことになるのです。
ところで、エンキドゥがシャムハトと語らうシーンには「ムリッス」の神名が出てきます。ムリッスは、エンキドゥの個人神・エンリルの配偶女神なのですが…ここに、エンキドゥ→シャムハトの聖的な信頼があると考えるのは飛躍しすぎでしょうか?(しすぎだと思う)

彼女(シャムハト)は着物を引き裂いて(脱いで)、
その一つを彼(エンキドゥ)に着せ、もう一つは彼女自身が着た。
彼女は彼の手をとり、女神のように羊飼いの小屋に彼を導いた。

バビロニア版・シャムハトがエンキドゥを導くシーンの月本先生訳です。おようふくを着せてあげるという、なんだか愛を感じるシーンです。

…少しフェイトの話をしますかね。フェイトでは、エルキドゥはその姿形について「シャムハトを模した」と言っています。

そんな僕に人として接してくれた女性(ひと)がいた。この姿は彼女を模したものです。……かつてのこの器(からだ)に心を与えたもの。その心を讃える為に、僕はこの姿を維持しています。

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プロフィール2でも確認できますね。ただしこれはFateの独自設定かなと思います。文章中でも見つけられないし、当時の図像を見ても、長い髭を蓄えた男として描かれているので…。でも、
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「古い同胞やシャムハト、そしてギルが人間らしさを刻んだ結果が、今の僕」…このことは、エンキドゥ/エルキドゥともに有する要素であって。そして、彼/彼女のいちばんの魅力だなと思います。神に造られた「モノ」が、人と出会い、人になっていく。

もぐもぐもぐ…

第二の書板には、「人間らしさ」について、もうひとつ挙げておきたいシーンがあります。上に続くシーンで、目の前に置かれたパンとビールを見ても、エンキドゥにはそれが何かわからなかった…というシーン。シャムハトはエンキドゥに語ります。

エンキドゥ、パンをお食べ。それが生きるしるしです。
ビールをお飲み。それが国のならわしです。

わ〜…( ; ; )
月本先生の古バビロニア版訳なのですが…なんてうつくしいんだろうか…。食べること、飲むこと…それが生きるしるし、国のならわし。すなわち「人間らしさ」なのですね。心が震えるうつくしいくだりです。このあと、たくさんパンを食べて、7壺もビールを飲んだエンキドゥは、

彼は気持ちがなごみ、嬉しくなって、心躍らせ、表情を輝かした。

となります。「生きる喜び」を知るんですね。

…よし。フェイトの話をします(2回目)。
エルキドゥの「霊基再臨2」の台詞、突然、「もぐ、もぐ、もぐ…」て言うんですよね。これホント突然で、最初はすごくびっくりしたんですが、↑のエピソードを知ってからは、「たくさんパンをお食べ…」って思うようになりました。この話を参照してのセリフ設定ならば、なかなかニクいですよね。

最後にお気に入りシーン

ウルクはえぬきがいかに強いか、国中に聞かせてやりたいものだ。
わたしは手を下し、香柏を伐り倒そう。
とこしえまでもわが名をあげたい。

フンババが住む森への遠征を望むギルガメシュの台詞。月本先生のラピス・ラズリ版訳です。この「とこしえまでもわが名をあげたい」がすごすぎると思います。めちゃくちゃ、めちゃくちゃかっこいいです。なお、96年訳は「永続するわが名をあげたいのだ」、矢島先生訳は「永久(とわ)なる名を私は打ち立てるのだ」となっています。矢島先生訳もまた趣がありますね…。
ちなみに、古代オリエント博物館が作ってくれたギルガメシュ叙事詩朗読CD(なんと関さんの朗読!)にもこのセリフは含まれてるのですが、まじで本当にすごいです。ウワ〜〜!ってなる…。語彙無…。

しかし、このギルガメシュの「英雄観」はある事件をきっかけに変わっていくことになります。その変化こそが叙事詩の魅力のひとつでもあるわけですがーーそれはまた、次の書板で。(…って締めたら、蒼銀のあとがきみたいになって楽しいですね!(伝わらないネタだよ!))。

 

※読んでる本については「ギルガメシュ叙事詩を読む(1):全知なるや全能の星」をご覧ください〜。