あたたかいパンとシチュー

「重いとも。そしてその重さを楽しめ、雑種」

ギルガメシュ叙事詩を読む(8):エンキドゥとの死別

ギルガメシュ叙事詩・第七・八の書板を読んでいきます。

(!)これは研究メモの類ではなくて、フェイトのおたくによる「感想文」です>< 原文や諸海外訳は読めていないのでごめんなさい…。なお、標準バビロニア語によって書かれた、全12の書板からなるバージョン(=「標準版」)をベースに読んでいます。

<第七・八の書板>
エンキドゥの死、ギルガメシュの哀悼

第七・八の書板に描かれるのは、朋友エンキドゥの死。一行ごとが切実で、哀しくて、鋭くて…。私には、これが4000年前の物語だなんてとても思えないのです。このシーンを語るのは、どうやっても無粋になってしまう気がしますが、敢えてストーリーラインを追っていこうと思います。

 

避けられぬ死の運命

ギルガメシュを讃える宴の夜、エンキドゥは恐ろしい夢を見ます。それは、神々がエンキドゥの死を定める夢でした。
アヌ曰く、「ギルガメシュとエンキドゥ、どちらか1人は死なねばならない」。
エンリル曰く、「エンキドゥが死なねばならない」。
よりによって、エンキドゥの個人神・エンリルが彼の死を定めるのですね。…まあ、エンリルのしもべであるフンババを殺してしまったのですから、道理なのかもしれません。ギルガメシュたちを応援していたシャマシュは反論しますが、エンリルはその決定を変えません(以下月本先生訳)。

「彼ら(ギルガメシュとエンキドゥ)は(略)天牛とフワワをお前(エンリル)の命令で殺したのではなかったのか。」
「お前(シャマシュ)が彼の仲間のように毎日彼らと共に行くからだ。」

シャマシュギルガメシュたちを庇護“しすぎた”から、彼らは人の分を弁えなくなってしまった…という主張なのでしょうか。そんな夢の内容を、エンキドゥはギルガメシュに告げるのでした。

エンキドゥは怒り、自らをウルクに連れてきた狩人やシャムハトを激しく呪いますが、それを聞いたシャマシュは、彼らのおかげでギルガメシュという友を得られたのだと説くのです。エンキドゥはもう、自らの死を受け入れざるを得ませんでした。

エンキドゥは泣き、ギルガメシュに思いのたけを打ち明けます(以下月本先生訳)。

「わたしを死後も思い起こし、忘れないでくれ。わたしがあなたと共に歩み続けたことを。」

そして12日ほど病に臥せたあと、エンキドゥはこの世を去るのでした。

 

自らの死を知り、動揺し、怒り、悲しみ、そして受容する。残される友への言葉を語る。
それは、「人間らしい死のおそれ」です。そのあまりにも繊細な描写にわたしは驚いてしまいます。死を目前にして人が想うことは、数千年の時を経ても変わらないのかって、そんなことを思ってしまって。
エンキドゥは夢の中で、暗く寂しい冥界の姿も目にします(以下矢島先生訳)。

入る者は出ることのない家へ

歩み行く者は戻ることのない道へ

住むものは光を奪われる家へ

古代メソポタミアの人々にとっても、死ぬこと、冥界へ赴くことは、本当に恐ろしいことだったんだろうな。


第八の書板は、そのほとんどがエンキドゥの死を悼むギルガメシュの言葉が描かれています。切なすぎて美しい言葉ばかりが続くので、どこを引用していいのかわからないのですが…(以下月本先生訳)。

「ところが、いま、あなたを捕らえたこの眠りは何だ。あなたは闇になり、もはやわたしに耳を傾けない。彼の心臓に触れても、いっさい脈打たない。」

いくら呼びかけても、いくら身体に触れても、動かない。それが「死」なのだと、ギルガメシュが理解する、理解してしまう。…鮮やかですよね。色褪せないですよね。
この部分に関しては、オリ博で出してる朗読CDも特におすすめできます。関さんの素晴らしい朗読のおかげもあり、ちょっとホントに泣いてしまう。

 

「あなたの死を忘れる者はいなかった」

最後に、Fateでの「2人の離別」について。
Fate世界のエルキドゥが「システム」だからでしょうか、7章のマーリンはその死を「電源を切られてしまった」と表現しています。

また、叙事詩のエンキドゥは「自身の死の受容」に感情が向いているのに対し、エルキドゥは、死に際しても友のことを想っていたようです。
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ほんと、ともだち思いのいい子だなあ…(推しの色眼鏡)。

また7章には、ラフムとなってしまったシドゥリさんがエルキドゥへの想いを語るシーンもありましたね。

「私タチ、ウルクノ民ハ、アナタへの感謝を、忘レハ、しまセん。
アナタハ、孤高ノ王ニ、人生ヲ、与エマシタ。偉大ナ王ヘノ、道ヲ、示シテクレマしタ。
アナタノ死ヲ、嘆カナカッタ者ハ、いなカッタ。
アナタノ死ヲ、忘レル者ハ、イナカッタ。」

叙事詩ではウルクの民がエンキドゥを愛する描写がいまいち少ないのですが…Fate世界でのエルキドゥは、ギルガメッシュ王の友として、ウルクの人々にも愛され尊ばれていたことがよく分かります。

そしてギルくんは。
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それが「悲嘆」であったと明に言う。言葉少なではあるけれど、いや、言葉少なだからこそ、沁みますね。

アニメ版第1話冒頭の印象的なあのカット…「崩れ去るエルキドゥの前で涙する王」のカットは、現実のものだったのかしら。それともキャスギルの夢だったのかしら。