あたたかいパンとシチュー

「重いとも。そしてその重さを楽しめ、雑種」

ギルガメシュ叙事詩を読む(1):全知なるや全能の星

ギルガメシュ叙事詩・第一の書板を読みます。

(!)これは研究メモの類ではなくて、フェイトのおたくによる「感想文」です>< 原文や諸海外訳は読めていないのでごめんなさい…。なお、標準バビロニア語によって書かれた、全12の書板からなるバージョン(=「標準版」)をベースに読んでいます。

<第一の書板>
ギルガメシュ讃歌〜エンキドゥとシャムハトの出会い〜友の訪れを示す夢

 

全知なるや全能の星

どんな物語においても、いちばん初めの一言…つまり冒頭文とは、非常に重要なモノでしょう。ギルガメシュ叙事詩の第一文は彼を讃える言葉であり、月本先生訳においては、次のように訳出されます。

深淵を覗き見た人について、わたしはわが国人に知らしめよう。
すべてを知った人について、すべてをわたしは教えよう。

う〜ん…何度聞いても痺れる語り出しだなと思います。大好きです。
一方、矢島先生訳では、

すべてのものを国の果てまで見たという人
すべてを味わいすべてを知ったという人

とされており、他に同様の訳出も多いようですから、もしかしたらこちらの方がメジャーなのかもしれません。

冒頭の語句は“シャ・ナクバ・イムル”。この、「nagba」の部分を「深淵」と訳すか「あらゆること」と訳すかで差が出ているみたいです。月本先生訳の「深淵」は解説にもあるとおり、のちにギルガメシュが若返りの草を取りに向かう「アプスー」を意識された訳出だと思うのですが、物語の展開を読者(聞き手?)に予感させてくれる素敵な訳だと感じます。好きです。ちなみに、先日…でもないか。22年5月に静岡で上演されたSPACさんのギルガメシュ叙事詩は、月本先生の“ラピス・ラズリ版”をベースにしていらっしゃる所以で、この「深淵」ということばを印象的に使われていました。いまの日本に生きる人間目線ですが、「深淵」ということばの持つ吸引力を感じた機会でした。

…よし、突然Fateの話をします。
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子ギルくんの宝具「全知なるや全能の星(シャ・ナクパ・イルム)」ってこれですよね(イルム←→イムルでひっくりかえってるけど)。プロフィール4の説明を見る感じ、矢島先生訳を意識してるような気がします。マテリアル確認しましたが、大きいギルくんの宝具としてもちゃんと登録されてますね。
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また、キャスギルの説明にも「すべてをみたひと」
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あと、テラリンのスキルでも「全てを見たもの」と。
後半2つは宝具…というか千里眼の話をされてるのかもですが、この冒頭一句から来てる設定であることは言えそうだなと思いました。

ギルガメシュの家族とか

父・ルガルバンダ
シュメル王名表では第3代の王で、おそらく実在した王。死後に神格化されたらしい。
ちなみに、ギルガメシュはルガルバンダの長子で第5代王。第4代王はドゥムジ。
母・ニンスン
ルガルバンダの配偶女神。ギルガメシュの夢解きをしてくれたりする。
このほか、叙事詩全体を通してギルガメシュをサポートしてくれる太陽神シャマシュは、ギルガメシュの個人神(Personal Deity)だったと考えられるようです(個人神=都市の神様などとは別に、個人的な守護神として特定の神様を信仰する習慣。新シュメル時代以降、のちのバビロニアアッシリア時代にまで引き継がれた)。ちなみにエンキドゥの個人神はエンリル。

「結び目」とはなんぞや

ところで第一の書板から、さっそく謎の表現が出てきます。「ニヌルタの結び目」、「アヌの結び目のように強い」と…(96年版月本先生訳)。とかく「結び目」なる表現が繰り返されるのです。月本先生によれば、正確な意味は不明で、「硬い隕石」「天体」とも訳されるようです。矢島先生訳では、「ニヌルタに力受けし者」「アヌの精髄のように彼の力は強い」となっていて「力強さ」を表現しているようです(一部、「天の星」を意味するとしたシーンも)。
「ニヌルタ」・「アヌ」は神様の名前ですから、天の神々が内包している力強さ(がもたらされる)…みたいな意味合いなんでしょうか。
また、結び目と聞くと反応してしまうエジプト勢。「イシスの結び目(knot of Isis)」なるものがあって、これは本当に衣服の結び目だったと思うのですが、あのアンクの異形らしいのですよね。アンクは「生命力」をあらわすモチーフだけど、同じようなイメージでいてOKなのかな。

…よし、突然Fateの話をします(2回目)。
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テラリンのスキルで、「ニヌルタの鬨(とき)」「アヌの籠目」なるスキルがありますが、こちらの神様ですね。ニヌルタは戦いの神様なので、前者は「戦神ニヌルタによる鬨の声」のような感じでしょうか。いいですね。
アヌは天の最高神ですが、籠に関する話、あったかなあ…。単純に、このスキルの効果の描写なのかもしれないです。

最後にお気に入りシーン

エンキドゥよ、人生を未だ知らない方よ。
あなたに喜びと嘆きの人、ギルガメシュを紹介いたしましょう。

聖娼シャムハトがエンキドゥをウルクへ誘うシーン、月本先生の訳です。いや、泣けてくるうつくしさがありますね…。
エンキドゥへの言葉は「人生を未だ知らない」…つまり、ウルクへ赴きギルガメシュと出会い、きっと彼は「人生を知ることになる」んだろうという予感が溢れてる。まるで冒険物語の序章、静かな物語のはじまり、みたいな匂いを感じます。
一方ギルガメシュへの言葉は「喜びと嘆きの人」…心がざわつきますね。だってギルガメシュは神々に祝福された王、一体彼の「嘆き」とは…予感がふくらむ名訳だと思います。暴政に苦しむ人々の「嘆き」なのか、孤独な君主の「嘆き」なのか、それともこれから彼らに訪れる「死の嘆き」の予告なのか…。
ここは、ぜひいつか原文を読みたいと思っています。

 

(読んでる本)