あたたかいパンとシチュー

「高所恐怖症パイロット?」

メソポタミアばなし③(古アッカド時代)

月本先生の文化史講義(22年度・前)を修了しました。手術入院とかいう意図せぬ長期休暇のおかげで、昨年度回含めて履修できてしまったので、これもまた人生よな…などと思う日々です。例によって、悪さない程度にちょこっとだけメモします。

 

【BC2350〜2150:古アッカド時代】
メソポタミアにおいて、最初に「統一王朝」が樹立された時代。シュメル人ではなくセム系民族による王朝。

◎初代王:サルゴン
都市キシュの献酌官であったが、周辺諸都市を支配下におさめ、統一王朝を樹立する。ルガルザゲシ(ラガシュやウルクを制圧したウンマ第一王朝の王。前ノート参照)を撃破した記録が残っている。「捨て子伝説」のような誕生説話を含む、さまざまな伝承物語が残っている。
◎2代王:リムシュ
シュメル諸都市で起こった反乱を制圧した。
◎3代王:マニシュトゥシュ
積極的な対外遠征を行うが、暗殺されたと考えられる。
◎4代王:ナラム・シン
アッカド王朝の版図を最大とした王。シュメル諸都市の「大反抗」を制圧したり、東方の山岳民族を滅ぼしたりした。
また、メソポタミア史で初めて、自らを神格化した王。
◎5代王:シャルカリシャリ
治世後半でラガシュやウルが独立へと動き、また他民族の侵攻も受けた。
◎6代王:ドゥドゥ/7代王:シュ・トゥルル
混乱期を経て王位に就くも、アッカド王朝は滅亡する。王朝滅亡の理由は未だはっきりとしていないが、山岳民族グティ人の侵入などが考えられる。

【諸都市の独立】
シャルカリシャリ以降、シュメル諸都市は独立へと向かっていく。アッカド王朝以前より有力であったラガシュでは、ウル・ババ/グデアという君主のもとで、再び繁栄期を迎える(新シュメル時代へ)。さらに都市ウルクでは、ウトゥへガル/ウル・ナンマがグティ人を滅ぼし、ウル第Ⅲ王朝を樹立する。


…以降、わたしがかんがえたことです。

【「統一王朝の崩壊」がもたらしたもの】
この頃のエジプトは、古王国時代の終わりから第一中間期の頭(古王国時代:BC2686~2181/第一中間期:BC2181〜2055)。地方豪族の権力が強大化しはじめ、王権が衰退し、800年ほど続いた「ファラオによるエジプト統一」が崩れた時代です。
つまり、「統一王朝の崩壊」が、エジプト・メソポタミアでほぼ同時期に起こっているのですが、これは興味深いことだなと思います。崩壊の理由として両者共に挙げられていたのは、「地方豪族(都市)の強大化」と「気候の悪化」でした(ただし後者は“懐疑的”のよう。BC2200頃の小氷河期のことを指していると思うのですが…どうなんでしょうか)。
しかし、確かに同時期に起こっているとはいえ、「統一王朝の崩壊」がもたらす意味?文脈?が、エジプトとメソポタミアでは大きく違うような気がしますね。だって、王政が続いていた期間だけを考えても、エジプトでは800年、メソポタミアでは200年なんですから。
神たるファラオの権力がなくなること。「絶対」「永遠」が失われること…。エジプトにおける王権衰退は、民衆に非常に大きな衝撃を与えました。王権衰退後の第一中間期は、地方の社会発展が進んだ時代だったようですが、市井の平和が乱れた時代でもあったことが文学作品から見てとれます(「イプウェルの訓戒」など。第一中間期の社会危機を描いたと考えられることが多い)。
「統一王朝の崩壊」後のエジプト(第一中間期)と、メソポタミア(新シュメル時代)の違いを考えることで、それぞれの「統一王朝の崩壊」の意味を捉えることができるような気がします。これは、次のノートで改めて、かな。

【王の「神格化」】
メソポタミアで初めて自らを神格化した王はナラム・シンのようですが、エジプト目線的には、「あっ、今なんだ!?」という感じでした。
というのも、エジプトでは初期王朝の頃(BC3000-2686)から、すでに王を「神王」とする理念が生まれていたらしいのです。さらに古王国時代第3王朝で「ファラオは現人神とする」認識が確立し、第4王朝では特に「ファラオは太陽神ラーの化身」とみなされるようになります。その後第5王朝では「ファラオは太陽神ラーの息子」という思想に変化するのですが、これは実際の王朝交代と関係したものなので、結局のところ「王」と「神」は同様の扱いだったといえるでしょう。
一方メソポタミアでは、ナラム・シンの「神格化」がのちに“不敬虔”であるという評価を受けているようで(ウル第3王朝の文学作品「アガデの呪い」。ナラム・シンが神に対して不敬虔だったのでアッカド王朝は滅亡してしまったという物語)、王と神の立ち位置がまったく違うんだなあと感じます。これが後の時代に変わっていくのか、変わらないのか…。これも、「今後のお勉強に期待」ポイントだなって思ってます。